ヒュウ、と口笛を吹く八峠さん。

だけど私は、そんな彼に視線を送ることなく、次の敵へと向かっていた。


斬って斬って、斬りまくる。

無我夢中で塊を斬り、敵を消し去っていく。


数日前まで……ううん、今日までずっと逃げてきた私が、今は幽霊と戦っている。


その隣で戦っているのは、小刀を持つ薄暮さんだった。


研ぎ澄まされた感覚の中で、薄暮さんがフォローしてくれているのがわかる。

私は正面の敵を斬り、薄暮さんは背後に迫る敵を倒してくれている。


お互いに会話は無いけれど、私たちの動きは『息のあった動き』と呼べるものだった。





──……数秒後、薄暮さんと共に10体の敵を倒し終わった私は、肩で息をしながら立ち尽くしていた。

……戦えた。 戦うことが出来た。


逃げずに立ち向かうことが出来た。 初めて、前を向くことが出来た。

なのに……、




「……薄暮さん……」

「はい」

「私……苦しいです……」


「うん、わかってる。 霊を消すのは、苦しいことなんだよ」




……私は、肩で息をしながら泣いていた。

ううん、今に始まったことじゃない。


最初の1体を斬った時から、私は泣いていた。




「いろんな想いが、溢れてきて……凄く、胸が痛くて……」

「うん、わかってる」






……彼らを斬りつけた瞬間、警棒を通して彼らの生前の想いが伝わってきた。

憎しみや恨みだけじゃなく、悲しさやツラさ、涙……それに、楽しかった思い出や、家族や友達と笑い合ってる瞬間の映像……。

色々なものが溢れてきて、どうしようもないほどに苦しかった。


それでも殺るしかない。 殺らなければこちらが殺られる。

自分にそう言い聞かせながら斬り続けたけれど、涙が止まることは無かった。