──幽霊が、私が感知出来る範囲にまで入ってきた。

数は10体で、大きさはそれぞれ成人男性ほどだ。




何故だろう。

今日の私は、幽霊のことを感じることが出来ている。

視界にはまだ入ってこない。 なのに霊の姿が把握出来ている。


病院で秋さんの霊の気配を感じたあとから、私の感覚は鋭くなっているみたい。


霊との距離は70メートル弱。

あと数秒で、彼らは室内にやってくる。


……全部が全部、憎しみや恨みを持って死んだ人の霊だ。

同級生からのイジメの末に首吊り自殺した人、会社をクビになって投身自殺をした人、交通事故に遭って将来への夢を絶たれた人、強盗に押し入られ、殺された人……それぞれみんな違った理由だけど、それぞれの負の感情は相当強い。


カゲロウはそんな彼らの魂を利用して、私たちを殺しに来ているんだ……。




「……八峠さん」

「あ?」

「武器、他にもありませんか」




……私は、自分でも驚くほどに冷たい声で言っていた。


何故だろう。

私は今、凄く怒っていた。


カゲロウは かつての仲間を殺し、今もまだ呪いを行っていて、『カゲロウの血』にそれを背負わせている。

霊を利用し、自分は姿を現さず、卑怯な手を使って秋さんの命を奪った。


そして今は私たちを狙ってきている。

しかもそれは、彼にとってはただのゲームに過ぎない。


……カゲロウは、私たちの命で遊んでいるだけなんだ。




「……私、今なら出来る気がします」




逃げずに立ち向かい、自分の手で霊を消す。 それが出来るような気がする。

ううん、『気がする』んじゃなくて、絶対に出来る。







「……大丈夫か?」

「はい」




霊との距離、30メートル。




「あんまり、無茶はしないようにな」

「それはこっちのセリフですよ?」

「……ん、確かに。 オーケー、好きにやれ」




距離、10メートル。


8……6……5メートル……──視界に、数体の霊が入り込む。






「斬れ。 全部斬れ。 お前が感じるままに、全部やれ」




八峠さんが持っていた警棒が、私の元へと放られた。

それを両手でキャッチしたあと、私はさっきまで八峠さんが構えていたように警棒を構え、そして……──、




「……っ……行きますっ」






──……私は、先頭を飛んできた黒い塊を斬りつけ、真っ二つになったソレを更に斬り、消し飛ばした。