「カゲロウ本体は?」

「高みの見物でしょうね。 目的を達成した直後なので、この戦いも『あわよくば』くらいにしか思ってないですよ」

「そうか」




……目的を、達成。

薄暮さんも八峠さんもそれ以上言わなかったけれど、その『目的』というのは、私にもハッキリとわかっていた。


カゲロウの目的は、『カゲロウの血』である人間を殺すこと……。

自分の身代わりとして『カゲロウの血』を殺すという目的が、今日 達成されたのだ。


……だからこれから始まる戦いは、カゲロウにとっては余興に過ぎないのかもしれない。

そして薄暮さんの言う通り、『あわよくば』だ。

この戦いで、他の『カゲロウの血』も命を落としたら儲け物。 きっとそんな風に思っているんだ。




「俺たちはゲームの中に登場するただの駒(コマ)ってわけだな」

「ですね、カゲロウの遊びの道具です」

「オーケー、俺たちも楽しもう」




八峠さんの表情はわからない。

でも彼の言葉の感じから、ニヤリと笑っていることが容易に想像出来た。


八峠さんは、言葉の通り……今の状況を楽しんでいる。

さっきまでは死ぬつもりだったはずなのに、今は全然違う……。



八峠さんにとっても、これはゲームなんだ。


生と死を賭けた恐ろしいゲーム……なのに彼は楽しそうに笑っている。

それは多分、負けないから……勝つことを知っているから……。


だからこそ、八峠さんは笑っているんだ。






「あと300。 来るぞっ」




八峠さんは負けない。 絶対に負けることはない。

どうしてそう思うのかはよくわからないけれど、それでも私は、確信を持って彼の背中を見つめていた。