「……八峠さん?」

「2キロ圏内に入った」

「……っ……」

「もうすぐ奴らが来る。 お前はそこを動くなよ」


「……はいっ!!」




2キロ……八峠さんが感知出来る範囲にまで、敵が迫ってきたんだ。

緊張と不安、それに恐怖……色々なものを感じている中で、呼吸が速まっていく。


八峠さんは私から少し距離を取り、病院があるだろう方向を向いて警棒を構えた。

その直後に現れた薄暮さんもまた、八峠さんと同じ方向を向いて小刀を構える。




「怪我は大丈夫ですか?」

「今のところはな」

「出来る限りのフォローはしますので、死なない程度に生きてください」


「俺が死ぬわけねぇだろ、この馬鹿っ」

「死ぬつもりだったくせに」

「うるせーな、んなもん覚えてねぇっつーの」




八峠さんは面倒臭そうな声だけど、顔は笑っているみたい。

その隣に居る薄暮さんは呆れたような声だったけど、やっぱり笑っているらしい。


二人が警戒を緩めることはなかったけれど、それでも二人の声には余裕がある。


……大丈夫。 絶対に、大丈夫。







「あと900メートル」




量の手をぎゅっと握り締め、祈るように胸の前へと持って行く。

……私の体は今、秋さんのお家のお札と八峠さんの結界によって守られている。


でも怖い。

どうしようもなく、怖い。


体が小刻みに震える中で、私は真っ直ぐに八峠さんの背中を見つめ続けるしかなかった。