ふっと笑った八峠さんは、段ボールから警棒を取り出してから立ち上がる。

それを勢いよく伸ばし、手をかざしながらまた何か呪文のようなものを唱え始めた。


──八峠さんの言葉に反応した警棒に、淡い光が纏う。

光の色は温かなのに、その周囲は冷たい空気へと変わっていた。




「普通、霊には触れることが出来ないだろう? だが力をコントロールすれば素手で相手を殴ることが出来るし、物に力を込めればそれは武器となる」

「……それが、八峠さんの武器……?」

「まぁな。 普段は素手で十分だけど 今は数が多いから、広範囲に攻撃が出来る武器の方がいい」




そう言いながら、八峠さんは警棒を構えた。

その構え方は、まるで日本刀を構えているかのよう。

多分、日本刀で人を斬るように、警棒で霊を斬るんだ。


警察官が持っているような警棒よりも少し長めに見えるそれは、確かに広範囲の攻撃に向いている。




「お前にはぶつからないようにするけど、ぶつかったらゴメン」

「え、ちょっと……そんなのがぶつかったら、私 血だらけになるじゃないですかっ」

「大丈夫だよ、ちょっと魂が飛びかかるけど、別に死にはしねぇから」


「ほぼ死んでるじゃないですかっ」




怖い怖い怖いっ。

八峠さんのニヤリと笑った顔が怖いっ。


この人、わざと私にぶつかってきそうっ……!!




「ほんとに、絶対こっちに来ないでくださいよっ!?」

「それはアレか、お笑い芸人の『押すなよー』ってやつ?」

「違いますっ!!」


「なんだよ、つまらん奴だな。 ちょっとくらいやってもいいじゃん」

「絶ッ対にやめてくださいっ!!」




必死に声を出し、肩でハァハァ息をする私に 八峠さんはまたふっと小さく笑った。








「やっとお前らしくなったな」

「……」

「お前は、お前らしく生きていけ」




私の頭をポンポンと叩きながら笑った八峠さんは、その後すぐに表情を引き締めた。