「ハクは秋を動かしているモノを潰して秋の魂を解放し、上へと送った。
アイツは上からお前を見守っている。 だからさ、もう泣くなよ。 泣いて後ろ向きなことばっかり考えてるとカゲロウにつけ込まれて魂を持って行かれる。
そうなったら秋が悲しむし、俺もツラい」





八峠さんは、ぶっきらぼうにそう言って私の頭をそっと撫でた。




「秋はもう居ないけど、さ……でも、俺らが忘れなければ大丈夫。
アイツはずっと、俺らのココに居る」




自分の胸の辺りをトントンと叩き、『な?』と小さく笑う。

その笑顔を見つめながら、私は微笑みとともに『はい』と返事をした。


……秋さんはココに居る。 私が忘れなければ、ずっとずっとココで生きている。




「なんか、漫画みたいなセリフだったな……。 でも、マジでそうだと思うよ。
俺もさ、親父やお袋のことを忘れたりはしないし、それに……彗(ケイ)のことも忘れない」

「……ケイ?」

「去年死んだ『カゲロウの血』だよ。 俺、結構 親しかったんだ」




彗さん……そうだ、その名前は去年亡くなった『カゲロウの血』だ。

私と彗さんを繋ぐものは『カゲロウの血』だけだけど、彼が『カゲロウの血』だと知ったのは彼のお葬式の時だ。

だから私は彗さんのことをほとんど何も知らないけれど、八峠さんは、彗さんと親しい仲だったんだ……。




「彗と俺は『カゲロウの血』っていう共通点から仲良くなっていったんだ。 お前と秋のようにな」

「……はい」

「俺たちはハクを交えて3人で酒を飲むことが多かった。 ……でもあの人は、カゲロウのことは知らないまま死んだんだ」