にっこりと笑った薄暮さんは、八峠さんの手を掴んで立ち上がらせた。




「では、まずは移動しましょう」

「……お前、言ってることがメチャクチャだな。 残るとか残らないとか言ってたのに、結局移動かよ」

「えぇ、移動しますよ。 だってここは病院の中ですから、他の人に迷惑がかかるでしょう?」


「……そうだな。 わかった、まずは移動だ」

「はい」




……薄暮さんの言葉に応える八峠さんは、いつもの八峠さんと同じように見えた。

『何もしたくない』と言った彼が、今は冷静だし、ちゃんと前を向いている──。






「おい、双葉 杏」




……私をそう呼ぶ姿も、いつもとおんなじだ。






「お前は弱い。 とにかく弱い」

「……」

「だからお前は、俺のそばから離れるな」


「……え?」

「ハクはお前を守らないって言ったんだ、俺が守るしかないだろう?」




ポンポンと私の頭を叩いたあと、八峠さんは小さな笑みを浮かべた。




「大丈夫。 俺はもう、大丈夫」




──……自信に満ちたその言葉ののち、私たちは薄暮さんの力によって 一瞬で場所を移動した。