「薄暮、杏を守ってやれ」

「……」

「頼むよ。 コイツが死んじまったら、秋が悲しむからさ」




いつもの憎たらしい笑顔や声ではなく、とにかく優しくて、そして、弱々しい。

まるで、涙を流さずに泣いているみたい……。


そんな八峠さんを見つめる薄暮さんは、小さく息を吐いてから 彼の前に腰を下ろした。










「お断りします」




……それはもう、ビックリするくらい爽やかな笑顔だった。

私の目から流れていた涙なんて一瞬で吹っ飛んでしまったし、八峠さんもまた、口を開けてポカンとしている。




「僕はあなたから離れるつもりはありません。 だから、あなたが残ると言うのなら僕もここに残ります」

「……なんでそうなるんだよ。 お前は杏を連れて、さっさと外にっ……──」

「3年前、あなたは全てを擲(なげう)って僕のところに来てくれた。
自分の人生を僕にくれたその瞬間から、僕の人生もあなたのものです」


「──……っ……」

「あなたが残ると言うのなら、僕も残ります」