『杏チャン』

「……っ……」




ドアのところで立ち尽くす私の隣に、ちょこんと座る小さな獣──オサキ。


ニセモノではなく、ホンモノのオサキだ。

ベッドのそばに居る八峠さんが私たちの方をチラリと見たけれど、何も言っていないのがその証拠だと思う。


『カゲロウの血』である私や八峠さんには妖怪である彼の姿が視えているけれど、秋さんのお父さんとお母さんには視えていない。

だから、オサキにどう声をかけようか迷っていた時……彼は私に向かって静かに頭を下げた。





『秋さんと一緒に居たのに、守れなくてゴメンね』

「あ……」

『炎に気を取られ、背後に迫っていたカゲロウに気付くことが出来なかったんだ。
秋さんは体を奪われ、操られ、そして亡くなってしまった。
全部僕のせいなんだ。 僕がカゲロウに気付いていたら、こんな結果にはならなかった。
秋さんが死ぬ必要なんて、無かったんだ』




……カゲロウ。

やっぱりカゲロウが、秋さんを……。






『本当にゴメン』




そう言ったあと、オサキはすぐに姿を消した。