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ブカブカの服から急いで制服に着替えたあと、私は八峠さんが呼んでいたタクシーの後部座席に乗った。

八峠さんは私の隣に座り、運転手に行き先を伝えたあとに、静かに話し出した。


……秋さんは、薄暮さんやオサキと一緒に双子の家のそばに居たらしい。

その時、双子の家で火事が発生して……秋さんは救助のため燃え盛る炎の中へと入っていた。


普通の考えならば、『親戚の救助にあたった勇敢な若者』だ。

でも八峠さんはそれを『不自然』と言った。




「秋が炎の中に入ったのは ハクが『全員を救助したあと』だ。
誰も居ないところに飛び込み、秋“だけ”が負傷した。 ……不自然 極まりないだろう?」




……確かに不自然だ。

薄暮さんが助けに入ったことを秋さんは知ってたはずだし、薄暮さんの超人的な力を疑うはずもない。

なのに、秋さんは炎の中へと入っていった。 ……助けを求める人など居ない、無人の建物へ。




「俺たちの方には使い魔を送り、カゲロウ本体は双子と秋を狙った。 そう考えるのが自然だろうな」




……前回と、おんなじだ。


どす黒い塊が私の家に襲撃してきた時、もう一方では秋さんが狙われた。

……これも、確実に殺すためのカゲロウの作戦……?




「……後手後手だ。 こちらの対処は、何もかもが遅い」




……カゲロウは私たちの居場所を知っているけれど、私たちはカゲロウの居場所を知らない。

カゲロウは色々なことを仕掛けてくるけれど、私たちはその対処に追われるだけ……。


八峠さんの言うように、私たちの行動は、何もかもが遅かった。