「ふぅ……」

時刻は4時30分。

全ての授業が終わり、本当ならば喜ばしき時間ですが、私にとっては緊張の始まる時間です。

「はぁ……」

いろいろ考えるおかげてもう一度ため息が出てしまいました。

「どしたー?
今にも死にそうな顔してるよー?」

「ちーちゃん……」

友達のちーちゃんです。

ちーちゃんは心配そうに私の顔を覗きこみました。

「ううん……。
なんでもないよ……なんでも」

「そぉ?」

訝しげにちーちゃんは私を見ました。

「……ちーちゃんって彼氏……いたよね?」

「おぉっ!?
今まで女子高生なら一回は通るであろう恋バナをしていない命が急にどうしたっ!?」

「たいしたことはないけど……そういうのってどういうものなのかなって……」

「んー……」

私の表情をくみ取ってちーちゃんは真剣に考えているようです。

ちーちゃんは普段騒がしくて、流行とかに人一倍敏感で……私にとって苦手なタイプの人間ですが、真剣な時は真剣で、人の痛みがわかるいい人です。

そして、私の数少ない友人の一人です。

「彼氏……ね。
一般論で言うと彼といるとドキドキするとか他のことなんか目につかないって言うけど私はわかんないんだよねー」

「……」

「そうねー、あんまり偉そうなことは言えないけどその人と一緒にいたい!
この人じゃなきゃ嫌!って思うもんじゃないの?」

よくわかんないけど、と最後につけたしちーちゃんは私を見つめました。

―この人じゃなきゃ嫌だ……か。

―私は恵介くんにこんな気持ちを抱いてるのかな……。

「命ーっ!!」

考えこんでいるとドアの方から聞き覚えのある声が聞こえました。

その声の主が来たことによって女子は浮き足だっています。

「なになにっ!
急に彼氏のことなんか聞くからてっきり好きな人でもできたかと思えば一戸瀬とつきあってたのっ!?」

「うん……。
今日……告白されて……」

「あっ、命!」

いつのまにか恵介くんが私の席まで来ていたようです。

「あれ?友達?
邪魔しちゃったかな……」

本当に申し訳ないと思っているように恵介くんは顔を歪めます。

「んや。別に大丈夫だよー」

「そっか、よかった。
ごめんね、えーと……」

「上及 千風(うわおい ちふう)っす!
ヨロシクぅ!」

「上及さんか。
一戸瀬恵介です。よろしく」

―仲良さそうでよかった。

―あれ?なんでよかったって思ったんだろ……。

「一緒に帰ろうと思ったんだけど止めておいたほうがいいかな?」

「いーえいーえ!
連れて帰ってやってくださーい!
あっ、でもまだ送り狼になっちゃだめだかんね!」

「ちーちゃん!」

「自信はないけど善処するよ」

「恵介くん!?」

「冗談だよ」

「じゃあ……また明日」

「じゃーねー!」