「あ、そうか。」
良い案が浮かんで、坂月は片手で自分の首からネクタイを外す。
シュル、と衣擦れの音がすると同時に、沙耶の手も自然とだらりと落ちた。
完全に放れた沙耶に、坂月はもう一度丁寧にジャケットをかけなおすと、気持ちシートを調節し、運転席に回った。
その間も沙耶はすぅすぅと気持ち良さそうに眠りこけていて、ピクリともしなかった。
エンジンをかけて、暖められ始めた車内で、坂月はハンドルにもたれかかり、暫くそんな沙耶の無防備な寝顔を見つめる。
そこには、数時間前、大男達をなぎ倒した、男顔負けの破天荒な強い女の顔はなく。
片手にネクタイ、そしてもう片手にしっかりと紺のワンピースを握り締めた、どこかしら、心細い表情をした幼い女の子が眠っていた。
頬には、涙の痕が幾筋も残っていて。
紺のワンピースからほつれが出ていた。
―破れている?
坂月は、その事実に気付いて、はっとする。
沙耶の身に何が起こったのかを、察したからだ。
「女の子にとって、服は、宝物なのにね。」
ぽつり、呟くと。
そっと、沙耶の前髪に触れ。
直ぐに、引っ込めた。
そしてゆっくりと、車は走り出す。
赤や黄色に色づいた、落ち葉を散らして。


