暖かい筈の、その場の空気が凍りついたように感じた。
口を開こうにも、沙耶には声が出せない。
テーブルの上に並べられたカトラリーの中のナイフが、沙耶の濃紺のワンピースに突き立てられ、裂かれている。
きれいな切り口に、余程切れ味の良いナイフなのだな、とぼんやり思った。
「お前、何か勘違いしてない?お前が俺に指図する権利なんてないだろーが。」
石垣の持つワンピースに手を伸ばしたまま、呆然と立ち尽くす沙耶を、石垣は鼻で笑う。
「ほら、返してやるよ。」
そして、切り裂いたそれを、沙耶に向かって投げつけた。
布切れと化したワンピースは、ふわり舞って、沙耶の手を掠め、はらりと床に落ちる。
「っ…」
それを目で追いながら、沙耶は唇を血が出るほど強く噛み締めた。
―泣かない。絶対にこの男の前じゃ、泣かない。
そのままかがんで、ワンピースを拾う。
「なんだよ、文句あるのかよ。そんな奴より、今着てる方が何倍も高いんだぜ?感謝しろよ。」
腰を上げた時、しっかりと睨んだ先にいる石垣が発した言葉に、怒りは頂点に達した。


