真っ暗な中で。
誰かが、土を踏みしめ、近づいてくる音がする。
―誰か、来る。
その場にしゃがみこんでいたらしい沙耶は、俯いていた顔を隠すように、長い髪の毛を手繰り寄せた。掴んだ毛束はいつもより少なくなってしまっている。
秋元の本家の裏には、立派な竹林が広がっていて。
どうしても、辛くなった時、沙耶はそこで一人で泣いていた。
沙耶のことをヒーローだと思っている弟の前で泣く訳にもいかず、叔母や親戚の子供の前で涙を見せるくらいなら死んだほうがマシだと考えていた。
―初めて、泣いた日。
気に入って、長く伸ばした髪の毛を、鋏で一掬い、切られた。
沙耶は唇を噛み締め、竹林の中ほどまで入っていき、そこで蹲(うずくま)って声を出さずに泣いた。
誰も来ない場所の筈だった。
なのに。
どんどんこちらに近づいてくる軽い足音に、親戚の子供だったらどうしようと沙耶は身を固くする。
そして。
『…誰?』
聞き覚えのない、声に。
沙耶は反射的に顔を上げた。
涙で湿った頬に、バラバラの髪の毛が張り付いたまま。
―綺麗な、髪の色。
場違いなことを思ったのを、覚えている。
『誰かに、髪、切られたの?』
そう言って、見知らぬ男の子はしゃがみこんで、沙耶の顔を心配そうに覗き込み、頬にある髪にそっと触れた。
『女の子にとって、髪は、宝物なのにね。』


