―『いいよ。俺はどこでも。』



それだけ言うと、押し黙ってしまった駿。


思う所は沢山あったに違いないと思う。


けれど、何も言わずに沙耶の言う通りにしてくれた。


この後に及んで、秋元家の言いなりになるなんて事。


駿にさせたくはなかったけれど。







「さむ…」



沙耶は自転車を漕ぎながら、まだ冷たい風に身を縮こませた。







「おはようございますっ」




40分自転車を走らせた所にある売店に着くと、沙耶は自転車を降りて店主に挨拶する。




「あぁ、おはよう沙耶ちゃん。来て貰って直ぐで悪いけど、トラックに載せてある野菜、中に運んでもらえる?」




「はい!」





今回沙耶の勤め先は道の駅で、主に農産物を売る手伝いをしている。


今日は週一で行われる朝市の日で、いつもより沢山の集客が見込まれる為、品数も通常より増える。




「燃えるわ…」



トラックの荷台に積まれているダンボールを前に、沙耶は早速作業に取り掛かった。




田舎な為に時給は低いが、家賃も低いし、ご近所さんが沢山野菜をくれるため、そこらへんで帳尻を合わせ、なんとかやりくりしている。


車がないときつい地域だが、自転車と2時間に一本のバスでどうにか凌いでいる。