―さぁ、どう出る?
深雪の反応のひとつひとつを漏らさずに、どんな小さな綻びでも見落とさぬように、諒は息を潜め、じっと待った。
深雪は諒の顔を見ることなく、暖炉にその眼差しを向けている。
その口元に、もう笑みはなかった。
コンコンコン。
静寂を軽快なノックの音が崩す。
深雪も小さく返事をした。
「失礼致します。」
着物姿の女の使用人が中へ入ってきて、ソツのない動作で、カップとソーサーを二人の前に置いていく。
空気に、湯気と共に漂うアッサムの香り。
使用人が出て行くと、静けさが逆戻りした。
深雪はおもむろにカップを取り上げると、紅茶を少しだけ口に含み、気分を落ち着けるかのようにゆっくりと飲み込み。
「―私が言えるのは一つ―」
やっと口を開いた。
「それは楓の意志よ。」
彷徨うようにうろうろとしていた目が、諒に向けられた。
「会社の事云々は、よくわからないし、肇さんがどんな風に加担したのかを私は知らない。けれど、楓がこの為にどれ程努力していたかは知っているわ。」
「―どうして…」
「どうして?」
思わず零れた諒の疑問の言葉を、深雪が呆れたように繰り返す。
「貴方達は表と裏だからよ。コインのようにね。いつ引っ繰り返ってもおかしくなかった。」
不可解な例えに、諒の瞳が揺れる。
「私の口からは正解は言えないわ。でもヒントはあげる。訊ねるならここではなくて、ちゃんと本人から―、巌さんから聞くべきね。」
深雪の口から意外な人物が出てきて、諒は動揺を隠せなかった。
「親父から?」
パチ、と火が弾けた音がする。
諒の脳裏に、まだ目覚めぬ父の姿が浮かんだ。


