シンデレラは硝子の靴を


「母親の具合はどうだ?」



お絞りで丁寧に手を拭った後、更に持参のアルコールティッシュで念入りに仕上げる石垣が、おもむろに尋ねた。




レストラン街の視察、と石垣が名目を付けてくれて、入ったのは鰻屋。

松竹梅とランクがあって、石垣は迷わず一番高いのを注文した。


鰻重なんて、いつ食べたか思い出せない位で、沙耶は高揚する気持ちを抑えるのに必死だった。



「おかげさまで、変わりなく。社長のお父様こそ、大丈夫なんですか?」



病院を追い出されずに済んだ母の入院費も、先日出た初給料で余裕で賄うことができた。

病状は一進一退といった所だが、こないだ見舞いに行った際も、体調は悪化した風ではなかった。

むしろ、忙しくなってから中々顔を出せないでいる沙耶の身体を心配していた。



「相変わらず……意識さえ、戻ればな―。」



父親の業務が一手に圧し掛かって来た石垣自身も、ロクに時間が取れず、病院にいく時間があるのかどうかすら、沙耶も把握していなかった。



「つーか、なんだよ、今更敬語とか。」



向かいに座っている石垣が馬鹿にしたように鼻で笑う。



「業務中は敬語を使うように努めております。」



「さっきの視察は業務じゃなかったのか?」



スーパー発言を思い出させる石垣の言葉に、沙耶はむっとするが。



「あれは…私情を挟みました。」



ショッピングモールなんて、自分には縁の無い話だと感じていたのが、仇となった。


ついつい、石垣にいつもの調子で話しかけてしまった。