シンデレラは硝子の靴を



「坂―」



いつもと違う坂月の態度を不思議に思い、名前を呼びかけた所で。



ガチャ。



扉の開いた音がして、沙耶は振り返った。



「おい、さっさと支度して、車用意してこい。」



見ると、石垣が外出の準備を整えて部屋から出てきた所だった。



「あ、はいっ!すみませんっ!」




沙耶はデスク上の置時計に目をやって、慌てて席を立つ。



今日は午前中から先月オープンさせた商業施設の視察に同行し、午後から同場所の最上階にあるホールでオープニングセレモニーに出席することになっていた。



といっても、石垣が出席するのは関係者やその家族だけを招待したもので、不特定多数の買い物客等を集めてのセレモニーは、施設外にある広場で別に行われるらしい。



人気キャラクターや、芸能人もお祝いに駆けつける(呼び寄せる)ことになっており、沙耶としてはどちらかといえばお偉いさんばかりのつまらない式よりも、一般向けの方に顔を出したいくらいだ。




「いってらっしゃい。」



コートと鞄をひったくって部屋を出て行く沙耶の後ろ姿に、坂月がにこやかに声を掛ける。




「あとよろしく頼む。」



「わかりました。楽しんできてくださいね。」



「どこをどうやったら楽しくなるのかこっちが訊きたいね。」




石垣は面倒そうな顔を隠すことなく、部屋を出て行く。