シンデレラは硝子の靴を

「今日はもう良いから、そのまま新居に帰るか?」



「え、いいの?」




もう仕事がない、こと、家に送ってくれる、こと。


この二つの事実に沙耶は一瞬喜ぶが。




「あ、ダメだ…あんたん家にチャリ置いたままになってる。」



「置いとけばいいんじゃねぇの?」



「だ、ダメ!あれがないと通えないっ」



「うちから送迎を出せば良い話だろ。」



「ダメダメ、ガソリンが勿体無い。」




真顔でそう言えば。




「……もういいわ、わかった。家に行く。」




石垣が呆れたように目をぐるりと回した。


秋の金色の陽射しが、街路樹も、道路でさえも、暖かく照らす。


そのなんでもない風景を眺めながら、沙耶はやっぱり今日の石垣は変だ、と思っていた。



音楽がかかっている訳でもなく、かといって会話もなく、車内は静かだった。



沙耶は沙耶で、本家の近くに行った事で、気分がやや塞いでいたせいもあって、フェラーリの加速に文句を言うこともなかった。


窓の外を見つめ、ぼんやりと、引越し先へと思いを馳せていた。



このまま、石垣の家に着けば、それで今日のお役は御免だ、と心の隅で思っていた。



だが。



もう少しで、石垣邸の敷地内に入るか、という頃。




「…叔父は、母親の兄に当たるんだ。」



石垣が急に口を開いた。