ひとしきり言うと少しすっきりした。


「ちょっと…掃除用具かなんか探してきます。」



交わらない視線に沙耶は小さく溜め息を吐き、ドアノブに手を掛ける。



「―お前は」



「へ?」




後ろからかかった声に、振り返ると石垣が顔を上げてこちらを見ていた。



「お前は、昔っから、そんななの?」



突拍子もない質問は、さっきからだが、今回のはもっと難解だった。



「昔って?」



訊き返す沙耶に、



「ガキの頃のこと」



石垣は即答した。



―は?子供の時????



沙耶はなんでそんなこと、と思いながら、必死で幼い頃の記憶を辿る。



と。




「うん、まぁ…昔っから…かな。」




負けん気の強い自分しか思い出せない。

あれから自分はちっとも変わっていない。



頷きながら答えれば、石垣はふぅん、と小さく呟いた。




「じゃぁ…」



石垣も立ち上がって、沙耶の傍まで来ると、少しだけ屈み―



「信じるわ。」



耳元で小さく囁いた。



「は?」



話聞いてました?と問いかけたくなるような言葉に、沙耶は思わず仰け反った。





「掃除はクリーンサービス頼んで。俺の部屋以外全部。」




本人は沙耶を余所に、颯爽と給湯室を出て行った。




「…なんなわけ…」




その背中をなんとも言えない気持ちで沙耶は見つめ。



―男心と秋の空、とは言うけれど。。。



石垣のコロコロ変わる態度に、正直もうついていけないと感じていた。



部屋中に漂う珈琲の香りと、沙耶自身の髪についたアールグレイの香りが交じり合って、その混乱に拍車を掛けているような錯覚。





初日から、前途多難の兆し。


疲労感、半端なし。



黒革の手帖に、その一文を書き込もうと心に決めた沙耶だった。