シンデレラは硝子の靴を

「―あ」




見覚えのある風景に、驚きの声が漏れた。




―あの夜、走り回った庭だ。



オールドローズの咲き誇る、広大な庭。



これだけのスケールなのだから、、沙耶が外に出ることなど不可能に近かったのだと悟る。



同時に。



―坂月さんに、、私何処まで運んでもらったんだろう。




自分が今見る所のどこらへんに居たのかは知らないが、坂月は相当な距離、沙耶を抱いて歩いたに違いない。



「あの…その節は、、重たいのに運んでいただき、申し訳ありませんでした…」




小さくなって謝った沙耶の頭の中は、昨日と一昨日の記憶がないまぜになっている。



夜中のあの時間帯に、坂月に会えて居なかったなら、今頃沙耶はどうなっていただろう。


こんな広大な敷地内を彷徨って居る間に、不審者として警備員に捕獲されて、独房行きだったかもしれない。


それが、あんな良いホテルのスィートルームで目を覚ますことになろうとは。



その上、ホテルの部屋は二つ、取ってあったようで。



部屋を後にする際、坂月がルームキーをふたつ持っていたのを沙耶は知っていた。


別段、確認した訳ではないのだが、坂月のそうした紳士的な振る舞いは、彼が策士だと踏まえた上でも、なんとなく好感が持てた。




―勿体無いとは思うけれど。




「秋元さんは、全然重たく無かったですよ。心配になる位です。」




坂月は振り返ることなく答えたが、その表情は笑っているに違いなかった。



同時に車が停まった事に気付いた沙耶は、坂月の方へ向けた目を、窓の外に戻した。



―個人宅だっていうのに、ロータリーがある。



呆れが上乗せになった所で、ドアが開いた。





「あ、どうもです。」




沙耶が降りるのを待ってくれている運転手に、軽く頭を下げ。




―また、ここに来ちゃった訳ね。



つい二日前に、自分が飛び出した大きな扉を複雑な思いで見上げた。