その日の夜、僕はふらふらっと部屋を出た。

 雪……。

 そういえば、君がいなくなった日も雪が降っていたね。

「病気に負けるな、死ぬなら戦って死ねとは言った。だが、無駄死にしろと言った覚えはない」

 横を見れば、そこには懐かしい顔があった。

「相変わらず気配ないね。ゴホッ、ゴホッ。……よくここまで入ってこれたものだね。――雪ちゃん」

 どうしてここにいるの?

「警備は薄いのでな」

「帰ってくる気にでもなった? ゴホッ、ゴホッ」

 それだとありがたいんだけど。

「それだったらこんな夜遅くに侵入するわけないだろ。もうそろそろ無駄死にしに行く頃合いだと思ってな」

 へえー。

「心配してくれたんだ」

「ああ」

 意外に素直。

「そんなに病気で死にたくないなら、私が殺してやろうか」

 なっ……!

「そのために来たの?」

「ああ」

 ご苦労なことで。

「……お断りするよ。それやったら今度こそ、約束破ることになるからね」

 好きな人の手を汚したくないし。

「へえー。約束守るんだ」

「雪ちゃんとの約束だからね」

 好きな人は特別でしょ。

「そう」

「ゴホッ、ゴホゴホッ」

 あー、そろそろやばいかな。

「おっと」

 倒れかけたのを雪ちゃんが受け止めてくれた。

「ごめん、雪ちゃん」

「ほら、とっとと布団に戻ってください」

 抵抗はあったが布団に運んでもらった。

「雪ちゃん、君に会えてよかったよ。これで、満足して行けそうだ」

 そのまま意識を手放した。