孤独な少女と誠の武士

「雪!」

 えっ?

 後ろを向くと、そこには黒髪を揺らして息を切らしている土方の姿があった。

「なんで……」

 なんでこんなところにいんだよ。そんなに息切らして、何やってんだよ。

「はあっ……はあ……。やっと……見つけたぞ」

 何必死になってんだよ。

「……離隊するって、本当なのか?」

 おいおい、近藤。何土方に話してんだよ。明日までは言わねえって約束だろうが。何破ってくれてんだよ。

「ああ、本当だ」

「俺たちに何も言わずに出ていくのかよ」

 別に言うことないし。

「だいたいあそこは離隊禁止だろうが。なんでわざわざみんなに言わねえといけねえんだよ」

 そんなに私を殺してえのかよ。

「だとしても、せめて俺にだけはなんか言ってけよ!」

 お前だけには言いたくねえよ。

「うるさいし厳しいし頑固だし意地っ張りな奴になんで言わねえといけねえんだよ。お前が一番厄介だろうが」

 しつこそうだしな。

「お前……」

「じゃあ一言だけ言っとくか。うるさそうだしな。たまにはその仮面、とったらどうだ? もう少し肩の力抜けよ。……それと、お前に会えてよかったよ」

 さて、行くか。

「じゃあな」

 去ろうとしたときに、後ろから急に抱き締められた。

「なっ……。おいっ! 何しやがるんだ! 離しやがれ!」

 なんでこんなに密着しねえといけねえんだ。

「好きだ、雪」

 ――ドキッ。

 胸の高鳴りを感じた。

「……私も好きだよ、土方」

「雪……」

 抱き締める力がより一層強くなった。

「もう、会えないのか?」

「普通に考えたら、もう二度と会えないだろうな」

「雪……」

 そんなさびしそうな声で人の名前呼んでんじゃねえよ。

 腕の中からするりと抜けだした。

「それでも、私はまた会えるって信じてる。……待ってるから、だから絶対会いに来い」

「ああ、約束する」

 叶うことのない約束。それでも私たちは、奇跡を信じた。

「じゃあな、土方」

 今度は笑って再会したいな。

 慶応1月17日、私は新撰組から姿を消した。