孤独な少女と誠の武士

 ……あれは、伊東?

 江戸に向かう途中、見覚えのある奴が少し前を歩いていた。

 なんでこんなところに……。向こうは気づいてないみたいだし、追うか。大目付としての……いや、新撰組としての、最後の仕事だ。

 こっそりあとを追った。

 ……長州の奴らと密会か。やはりあいつはあっち側だったな。

「――動くな。動けば即死だ」

 長州の奴の後ろに立ち、そいつの首に刀を突きつけた。

「何者だっ!」

 周りにいた奴らが次々と刀を抜いた。

 はあー、本当に人間は馬鹿だな。

「動くなと言っただろう」

 動いた奴から次々と胸部を斬っていった。

 ……6人か。残りはこの怯えて腰を抜かしてる奴と、薄く笑みを浮かべてピクリとも動かない見覚えのある男だが……。

「た、助けてくれ。頼む」

 動いたね、口が。

 先程の奴ら同様に胸部を斬った。

「酷いのねえ。声を発しただけで殺しちゃうなんて」

 お前もやっと動いたな。

「私は動くなと言った。それが口であろうと足であろうと腕であろうと、動いたことに変わりはない」

 さて、最後は貴様だ。

「場所を移しましょうか。話したいこともありますし」

 殺す前にやることがある。

「ええ」

 来たのは橋の下。

 ここなら人に見つかる可能性も低い。

「この前話が途中でしたよね?」

「そういえばそうね。将軍直属の隠密役を勤める大目付の一員、神田龍さん」

 本名までは知らねえのか。

「なるほど。それで私を観察していたのか」

 誰かに見られているような感覚があったからな。

「ええ。なぜ幕府の犬がこんなところにいるのか気になってね」

 てめえには関係ねえ。

「だが残念だな。私はもう大目付ではない。お前の興味の種はもうない。それでも、お前は殺していくぞ」

「なぜ?」

 殺す理由なんてない、5年前の私ならそう言っていただろうな。

「新撰組の邪魔になるからだ。彼らの誇りを汚したお前を、生かしておくわけにはいかない」

 彼らの誇りは、私が守る。

「さようなら」

 ――ザシュッ。

 心臓を突き刺す銀色の刃。

 それにはとても重いものが乗っていた。

 ――凍てつく心を溶かしてしまうほどに熱い、誠の武士たちの誇りが。

 そして真っ白な地には、真っ赤な花が咲いていた。