血龍人眠薬。人間や龍神の血、さまざまな薬を調合して作り出された薬。服用者は超人的な力を得るが、夜にしか動けず自我を失う恐れがある。

 幕府が我々一族を滅ぼした本当の黒幕なのだとしたら、私は一体どうするのだろうか。

「ゆーきー!」

 びくっ!

 ばっと後ろを振り返ると、そこにはにこにこしている琉菜がいた。

「琉菜! 勝手に入ってくんなって言ってんだろうが」

「ぼーっとしてる人がよく言うよ。素振りだってまともにできてないじゃん」

 うっ……。

「で、どうしたの?」

「はい、報告書」

 1通の手紙が渡された。

 報告書ってまさか……!

 私はすぐにそれを読んだ。

「…………これが、真実」

「どうするの? 雪」

 もうここともお別れだな。

「……3日後、江戸に戻る。もう人形はやめだ。久しぶりに自分の意思で、血の海を作ろう」

「初めてだよ。雪のそんな顔見るの」

 一生しないと思ってた。

「雪って人殺すとき、そんな楽しそうに笑うんだね」

「そうみたい」

 他人事のような言葉がぽろりと口からこぼれた。

「じゃあ、私は先に戻ってるよ」

「うん」

 さて、いろいろと準備するか。

 幕府が黒幕。その事実がわかったとき、私は意外にも冷静だった。将軍の人形として忠実に敵を排除していた日々が懐かしいとさえ思ってしまった。――人形の仮面は、粉々に砕け散ってしまったから。

 1匹の眠っていた狼は、突如として目を覚ます。腹を空かせた獣は、大きな大きな狩りに出たのだった。

 さあ始めよう、人狩りを――。