「瞳（ひとみ）さん、雪です」

　ある店の前まで行き、そう言った。

「雪、久しぶりね。こっちに来ているとは聞いていたけど、まさかこんな時間に来るとは思わなかったわ」

　黒色の長い髪とぱっちりとした灰色の瞳を持つ綺麗な女性が出てきた。

「すみません、こんな朝早くに。洗わせていただいてもよろしいですか？」

「いいわよ。中に入って待ってて」

「はい」

　中に入ってしばらく待たせてもらった。

「雪、準備できたわよ」

「ありがとうございます」

　体、髪、服を洗い、いつも着ている黒色の着物と灰色の袴に着替えた。

「今回はそんなに多くないみたいね。仕事、長くなりそう？」

「どうでしょう？　もうそろそろ終わってもおかしくはないと思います」

　彼女も私たちと同じく大目付の１人。彼女は長期任務中で京都に滞在している。

「そう。油断しないようにね」

「はい。では失礼します」

「ええ、またね」

　また……。

　とっとと屯所に戻った。

「雪、帰ってきたのか」

　屯所に戻ると、丁度平助がいた。

「あっ……、うん」

「おかえり、雪！」

　それは、私が戻ってきていいって言ってるのか？

「雪？　どうした？　ぼーっとして」

「藤堂君、神田君だって疲れているんですよ」

　平助の後ろにはいつの間にか山南がいた。

　ドクンッ……。

「山南さん、起きてて大丈夫なのかよ」

「ええ、今日は体調が良いんです」

　……この感じ、前にも……。そう、私が初めて鬼神を見たときと同じ……。

「神田君、土方君に報告を終えたら休みなさい。疲れたでしょう」

「……はい」

　どうして、どうしてお前から鬼神と同じ気配がするんだよ！