「あれ? もう帰ってたんだね」

 後ろから沖田が声をかけてきた。

「はい。さっき戻りました」

「なーんだ。ちょっとは洗濯やっとこうと思ったのに」

 えっ?

「……沖田さん、どこかで頭でもぶつけましたか?」

「どうして?」

「面倒くさがりな沖田さんが自分から手伝うだなんて言うわけないじゃないですか。どこかで頭を打ったか変な物を食べたとしか考えられません」

 変な物を食べたという説のほうが有力そうだな。

「失礼なことを言うね。僕はいつも通りだよ。頭も打ってないし変な物も食べてないよ」

「じゃあなぜ手伝うなんて言うんですか?」

 誰かに何か言われたのか?

「そうだなあ。原因があるとするなら……君かな」

 はっ?

「どういう意味ですか? 私、文句を言った覚えはありませんが」

 心の中では言ってるかもしれないが、口には出していないはずだ。

「違うよ。ただ単に、君の力になりたいと思っただけだよ」

 …………何を言ってるんだ、この人は。

「沖田さん、今日はゆっくり休んだほうがいいと思います」

 絶対おかしい。

「だから違うって! ……はあー、君には直球で言わないと伝わらないみたいだね」

 何を?

「禁門の変以降、雪ちゃん、土方さんに敬語使ってないでしょ。僕がいない間に何があったのか知らないけどさ、それにちょっとむかついたの。で、ぐずぐずしてるわけにもいかないかなあって思って、これでも内心焦ってるんだよ」

 ん? 土方に敬語を使わなくなったからと言って、なんで沖田が焦るんだ?

「あっ! もしかして沖田さんにも敬語を使わなくなるんじゃないかと不安に思ってるんですか? 大丈夫ですよ、そんなことありませんから」

 土方と平助以外にはちゃんと敬語で接する。

「……その逆なんだけどなあ」

 逆?

「ねえ、僕にも敬語なしで接してよ」

 えっ?

「土方さんだけずるい」

 ずるいって……意味わかんないぞ?

「土方だけじゃないですけどね」

「えっ? 他に誰がいるの?」

「平助もですよ」

 平助はお詫びの印って形だけどな。

「平助も!? しかも名前呼び捨て!? 君たち、いつそんなに親しくなったの?」

 いや、親しくなった覚えはないんだけど。

「平助のは怪我させたお詫びですから」

「それでもずるい。僕のことも総司って呼んでよ! 敬語もなしで」

 えっ……。

「なんでそうなるんですか」

「だって2人だけずるいじゃん」

 いやいやいや、だってじゃないし。

「お断り……」

「あー、わかんないかなあ」

 なっ……。

 いきなり顔が近づいてきたかと思えば、顎をくいっと上げられ、沖田と目がそらせない状態になってしまった。

「僕はね、土方さんや平助に嫉妬してんだよ。君が好きだから。だから、誰にも渡したくないって思うし触れられたくないって思うんだ」

 えっ……? もしかしてこれが、世間一般的に『告白』と呼ばれるものなのだろうか……。

「あの……」

「ねえ、おとなしく、僕のものになってよ」

 ……っ!

 唇に温かくて柔らかいものが触れた。

 これってもしかして……接吻!?