私たちが天王山に向かう途中、意外な人物が待ち受けていた。

 あれは……!

「土方さん、目の前にいるのが先日話した神宮寺海里です」

 なんでこんなところにいんだよ。

「わかった」

 土方?

「誰かと思えば、池田屋にいた新撰組か」

 神宮寺が冷ややかな目でこちらを見てきた。

「無能な幕府の犬め」

「何をー!」

 その挑発に1人の隊士が乗り、彼に襲いかかろうとした。

 危ない!

 突っ込んでいった隊士の目の前に出た瞬間、肩を神宮寺に斬られた。

「ちっ……」

「龍!」

 永倉が駆け寄ってきた。

「大丈夫ですよ。そこまで酷くはありません」

 布をすぐに巻きつけた。

 ……治りが遅いな。

「なぜ人間を庇う? そいつらは我々を利用し、裏切ったのだぞ!」

 確かにそうだ。

「私だって人間は嫌いだ。だが、この人たちは例外みたいなんだよ」

 仲間だと言ってくれた、そう思ってくれてる彼らの傍にいたい。

「土方さん、ここは私がやります。先に天王山に向かってください」

 長州の奴らが最優先だ。

「待て。敗北を知り、自ら腹を斬ろうとしている奴らをなぜそこまで追う。放っておいても死ぬんだ。放っておけばいいだろ」

 切腹する気なのか。

「これは向こうが仕掛けてきたものだ。そいつらが戦場で死ぬ覚悟もないなんて、同じ武士として納得いかねえ。それに死ぬなら戦場で死にたいはずだぜ。そいつらが、誠の武士ならな!」

 誠の、武士……。

「新八、隊士を連れて先に行け」

「わかった」

 永倉は隊士を連れて天王山に向かっていった。

「土方さんも行ってください」

 ここは私がやる。

「お前はそこでおとなしくしてろ。まだ傷は治ってないんだろ?」

 なっ……。

「ここは私がやります」

「俺がやる」

 むっ……。

「私です」

「俺だ」

 頑固だな。

「私だって言ってんだろうが。人間ごときが龍神に勝てるわけないだろ! 自分の命をなんだと思ってんだ!」

「武士ってのは戦いの中で死ぬもんだ! 死ぬのなんか怖くねえ」

 こいつ……。

「死ぬのが怖くねえからってここで死んでいいことにはなんねえだろうが! そういうのを無駄死にって言うんだよ! 副長のくせしてそんなこともわかんねえのか!」

「ついこの前来たような奴が偉そうに俺に指図してんじゃねえ。俺は上司だぞ。上司の命令にはおとなしく従っとけばいいんだよ!」

 誰が上司だ。

「てめえを上司だと思ったことは一度もねえ!」

 このお飾り副長が!

「しゃべりすぎだ」

 なっ……!

 神宮寺が急に斬りかかってきた。

「私を待たせるな。決まらないなら私が決める。まずはお前だ、人間」

「上等だ。ってことで神田、お前はそこでおとなしくしてろ」

 ちっ……。

 土方は神宮寺に斬りかかるが、神宮寺はそれをひょうひょうと避けていく。

 やめろ……。

「まだまだだな。この程度でこの私に刃を向けるとは……生意気な奴だ」

「うっ……」

「土方!」

 腕を負傷してしまった。

「終わりだ!」

 やめろ……。

 ――「雪は、生きてね」

 またあんなふうになるのは、嫌だ。

「やめろー!」

 力を解放し、刀を抜いて神宮寺に襲いかかった。

「ここからは私が相手だ」

 お前に土方は殺させない。

「力を解放してまでもそいつを守りたいか」

「当然だ」

 彼は、私の仲間だから。