それからしばらくして、さっきの男と上の人間らしき奴が2人入ってきた。

 1人は黒色の短髪と瞳を持つたくましそうな男性。
 もう1人は漆黒の髪を高い位置で一つに束ねている、藤色のきりっとした瞳を持つすぐ怒りそうな男性。

「局長の近藤勇(こんどういさみ)だ」

 大らかそうな人柄。トップにふさわしそうな奴だ。慕われてそうだし。

「俺は副長の土方歳三(ひじかたとしぞう)だ」

 『鬼の副長』って言われてる奴だな。見た目からして怒ると怖そうだし、怒らせないほうが身のためか。まあそれでも隊士からの信頼は厚いんだろうな。じゃなきゃこの組織が成り立つわけがない。

 ここは局長に足りない部分を副長が補っているという構造だな。局長は主に隊士の心を支え、副長は隊士に厳しくして全体的な戦力向上を狙ってるのか? まさに飴と鞭だな。

「僕は一番組組長、沖田総司(おきたそうじ)だよ」

 こいつが『天才剣士』って呼ばれてる奴!? こんなに若い奴だったのか。まあさっきの手つきを見ればそれも納得できるか。

「神田龍(りゅう)です」

 基本任務中はこっちの名を名乗る。男として動くことが多いからな。

「入隊希望だったね。俺は別に構わないんだが……。トシはどう思う?」

 近藤が土方にそう聞いた。

 トシっていうのは土方のことなのか。
 そんなふうに呼んでるんだから近藤は相当信頼してるんだろうな、土方のこと。

「俺はあんたがそれでいいってならそれで構わねえ。だが、そんな女みてえな細っこい腕で戦えんのか?」

 女みてえじゃなくてれっきとした女なんだよ。……こういうところから女だとばれることもあるが、こいつは気づいていないらしい。

「人並みには」

「お前、殺す覚悟も、殺される覚悟もできてんだろうな。こっちだって暇じゃねえんだ。覚悟もねえ奴を入隊させる気はねえ。覚悟がねえなら、今すぐ消えろ」

 すごい言われようだな。

「はははっ。覚悟? 笑わせないでくださいよ。そんなものとっくの昔にできてますよ。私は目的を果たすためにここにいる。それができるなら、死んだって構わない」

 キッと土方を見た。

「なら入隊試験ってことで俺から1本とってみろ。そしたら入隊を許可する。それでいいか? 近藤さん」

 副長から1本か。おもしろそうだ。

「いいだろう」

「神田もそれでいいだろ」

 否定は許さないと言っているかのように威圧をかけてきた。

「はい」

 それに動じず、淡々と返事をした。

 副長の実力、見させてもらおう。

「来い。道場に案内する」

 土方の案内で道場へと向かった。

 刀には自信がある。武術は幼い頃から鍛えてきた。初対面で、しかもこれからの待遇に差し支える相手だとしても、負ける気はない。