神田との話が終わり、俺は再び仕事に戻った。

 …………あー! 集中できねえ。

 ――「嫌いですよ」

 即答で人間を嫌いだと言った神田。

 なんでだよ。なんで、そのときのあいつの顔や声が頭から離れねえんだ。なんでさっきからぐるぐるそこだけ繰り返されてんだよ。

 ……久しぶりに素振りでもするか。

 持っていた筆を置き、道場に向かった。

 ん? 誰かいるのか?

 そこには熱心に素振りをしている神田がいた。

 ……何かを振り払おうとしてる感じだな。

 そうわかっていながらも止めることはせず、そのまましばらくそれを眺めていた。

 苦しそうな顔。いつも無表情で顔色一つ変えねえからわかんねえけど、人の何十倍も努力してんだよな。あんな苦しそうな顔、初めて見る。

 ……いい加減やめさせるか。

「神田、それくらいにしとけ」

 神田の腕を掴み、それ以上腕を上げれねえようにした。

「……土方さん」

 俺の気配に気づいてなかったのか? それほど集中してたのかよ。

「手、血が出てんじゃねえか」

 神田から木刀を取り上げると、手は傷だらけだった。

「大丈夫ですよ、すぐに治ります。私は、化けものなんですから」

 そう言った神田の目は冷めきっていて、とても悲しそうだった。

「てめえは化けもんなんかじゃねえよ。お前は俺たちの仲間だ。人間じゃなかろうが、それは変わんねえよ」

 気付くと俺は、無意識に神田を抱き寄せていた。

「綺麗事言わないでくださいよ。この間まで私のこと疑ってたくせに」

 その通りだ。

「確かに俺はお前を疑ってた。だから情報も集めさせた。だが、もうそんなのどうでもよくなっちまったんだよ」

 いつの間にか俺は……。

「お前は自分の秘密を俺たちに話した。少しかもしんねえけど、心の声を聴かせてくれた。それだけで、お前が敵じゃねえって判断するには十分だ。お前は人間が嫌いじゃなくて、憧れてんだよ。生きることに必死になってる、人間に。嫌いな奴に自分の秘密なんて話さねえもんな」

 こいつの本音はわかりにくい。でも、ちゃんとどこかに隠れてんだよな。

「そんなこと……」

「素直になれよ。ここにいる奴らはお前を否定しねえ。だから安心して身を預けろよ」

 あー。俺は本当はこいつのこと、誰よりも信用してんだよな。

「ありがとう……ございます」

 俺は、こいつを守りたい。ずっと、こいつの傍にいたい。