「ふあー」

 道場に行く途中、平助があくびをしながら部屋から出てきた。

「平助」

「ん? 雪じゃねえか。どうしたんだ?」

「ちょっと道場で稽古をしようかと」

 気を紛らわしたいし。

「そうか。傷のほうはもういいのか?」

「はい。平助のほうこそ、傷、大丈夫ですか?」

 頭とか腕とか足って聞いてるが。

「ああ。腕と足のほうはもう大丈夫だ。俺的には頭のほうもいいって言ってんだけど、心配だからって休まされてるだけだ」

 頭は一番厄介だからな。

「すみません。私が深入りしなければ、平助が怪我することはなかったのに」

 あいつらが関わってるとわかると周りが見えなくなるからな。

「雪が悪いんじゃねえよ。それは実力不足の俺の責任だ」

「ですが……」

「じゃあお詫びってことで一つ頼み聞いてくれよ」

 頼み?

「なんですか?」

「敬語なしにしてくれ」

 まあ、そのくらいなら……。

「わかりました」

「それにしても優しいな。雪ならそんなのは自分の責任だって言うかと思った」

 ……っ! そうだ。なんで罪悪感なんかが生まれてるんだ。そんなのまるで……。

「やっぱり雪は、人間らしさがちゃんとあるな」

 人間……らしさ……?

「いくら体が人間以上だって言っても、心は、そうでもないだろ?」

 心……。

「私にそんなのはありません。私は……」

「意地っ張りなんだな、雪は」

 意地っ張り……。

「敬語、ちゃんと直してくれよ」

 あっ……忘れてた。

「はい」

「じゃあ雪、体には気をつけろよ」

 そう言って部屋に入っていった。

 何しに出てきたんだ?

 再び足を進め、道場に向かった。