「で、お前は何者だ?」

 はあー、もうその質問は聞き飽きた。

「龍神だと前言いましたが」

 何回言えばわかるんだ。理解力がないのか?

「それ以外にあるだろ。龍神だったらあんな短時間で情報を入手できるのか? 容赦なく人を殺せるのか? 無表情で冷淡に人を斬れるのか?」

 情報源は沖田か。

「確かに龍神という理由だけでは片付けられないことがあります。ですが、我々は不老不死に近い存在です。なので死に対する恐怖があまりありません。だからこそ無表情で冷淡に、容赦なく斬れるんです。恐怖も痛みも、私は感じませんから」

 命の重さ、死への恐怖、そんなものは人形の私には不必要だ。

「他にも理由はありますが、それはお答えできません。あなたは知らなくていいことです」

 知ることは死を意味する。無駄な血は流したくないのでな。

「……そうか。龍神のことでいくつか聞きたいことがあるんだが」

 ん?

「なんですか?」

「神田一族や神宮寺一族ってのはどこにいるんだ?」

 あー、そんなことか。

「神田は江戸周辺、神宮寺は京周辺にいますよ」

 今もそこにいるかは知らないけど。

「人間たちと暮らしてるんじゃないのか?」

「違いますよ。私たちは山奥などの人があまり来ないところに住んでいます。我々が人間と接触することはほとんどありません」

 私たちみたいなのが例外なだけであって。

「なぜだ?」

「随分と昔は私たち一族は人間と共に生きていました。ですがいつからか人間たちは私たちに恐怖しました。そして……殺そうとまでしたんです」

 それから一族は山奥などでひっそり暮らし始めたんだ。

「人間を嫌ってるのか」

「そうです」

 だから一族のほとんどが人間と一切関わろうとしない。

「……お前もか?」

「嫌いですよ」

 大っ嫌いだ、人間なんて。

「人間は優しすぎる。家族や友人、仲間を大切にする。それが悪いとは言いません。むしろ良いことだと思います。ですが、それで自分の命を犠牲にするのは間違ってる。残された者の気持ちなんて考えずに、そんなのただの自己満足じゃないですか。迷惑なんですよ、そういうの」

 自分の目の前で大切な人が死ぬ辛さをわかってないからそんなことができるんだ。

「お前……大切な人を失ったのか?」

 なっ……。

「何言ってるんですか。ありませんよ、そんな経験。ただそういうことを人間はやるって知ってるだけです」

「そうか。真剣に言ってるから経験があるかと思ったんだが、はずれか」

 はずれなんかじゃねえよ。

「これで話は全部ですか?」

「ああ」

「では、失礼します」

 私は部屋に戻らず、そのまま道場に向かった。