「雪……ちゃん……?」

 珍しくまだ起きていない雪ちゃんを起こそうと肩に触れた瞬間、彼女は傍に置いてあった刀を抜き、なんのちゅうちょもなく僕の首に当てた。

 ……すごい殺気だ。少しでも動いたら……死ぬ。

 でも、目は恐怖を訴えてる。殺されるときにする目だ。

「雪ちゃん」

 もう一度彼女の名を呼んだ。

「…………すみません!」

 彼女はすぐに刀を鞘に納めた。

「本当に、すみませんでした」

 もう一度深々と頭を下げてきた。

「正気に戻ってくれたならそれでいいよ。それにしても、どうしてそんなに怯えているんだい?」

 普段の彼女ならこんなことはまずない。恐怖をあらわにするということは弱点をさらけ出していることに等しいからね。君は、何に怯えているの?

「……そんなことないですよ」

 その少しの間と微かに揺れている瞳が動揺していることを物語らせる――。

 否定しても無駄だよ。

「朝食の準備してきますね」

 逃げるようにしてそそくさと部屋から出ていった。

 いつも冷静に物事に対処する彼女。感情を表に出すことはほとんどない。だから、笑っているところも……。

 ――彼女の笑顔が見たい。

 そう強く思った。

 笑わない理由が過去にあるのだとしたら、恐怖が原因だと言うのなら、僕がそれを和らげよう。だからどうか、笑って――。

 君の心も体も、全て僕だけのものになればいい。僕でいっぱいになればいい。