「副長」

 部屋に山崎が入ってきた。

「神田雪についてですが、全く情報が掴めません」

 何!?

「ここに来る前は江戸にいたようなのですが、それ以外は……」

 ただ者じゃねえな。情報が掴めないのは龍神ってのと関係があるのか?

「そうか。ご苦労だったな。休んでいいぞ」

「御意」

 あいつは一体何者なんだ? 人間の上を行く種族だってのはわかった。だが、それだけでぐちゃぐちゃに絡まった糸が全部ほどけるわけじゃない。まだほんの一部が解けたにすぎないんだ。

 ……なんでこんなにあいつのことが気になるんだ? 敵か味方かがはっきりしないからなのか?

「怖い顔が余計怖くなってますよ」

 突然後ろから声がしたかと思ったら、そこにはくすくす笑っている総司がいた。

「おい、神田の見張りはどうした?」

 ってか勝手に襖開けてんじゃねえよ。

「大丈夫ですよ。今日は久しぶりの布団でぐっすりですから。随分と疲れてたようですよ」

 総司は壁に背を預け、少し笑いながらそう言った。

「久しぶりって、いっつもどこで寝てんだよ」

「壁にもたれかかって寝てますよ」

 おいおい、よくそんなんで寝れるな。あいつがあくびしてるところなんて見たことねえし、てっきり布団でぐっすり寝てると思ったんだが。

「おい総司、女はもうちょっと丁寧に扱えよ」

 風邪引いたらどうすんだよ。

「本人が壁でいいって言うんですから、しかたないじゃないですか」

 そういう問題でもねえと思うが……。

「かわいいですよ、雪ちゃんの寝顔」

「そうか」

 そんな報告いらねえよ。

「冷たい反応ですね。土方さんは興味ないんですか? 雪ちゃん」

 はっ?

「あるわけねえだろ」

 なんであんな奴……。

「じゃあ遠慮なくもらっちゃおうかなあ」

 …………はっ?

「お前まさか……」

「好きですよ、雪ちゃん」

 おいおい、まじかよ。

「強くて普通にしてれば男に守られるって感じじゃないですけど、時折見せる弱さがぐっと来るんですよね。僕は彼女を守りますよ」

 総司の瞳は強い光を放っていて、いつものふざけた感じは一切なかった。

「そうか」

 こいつが女にここまで本気になるとはな。今まで遊びでしか女と関わってこなかったのに。

「じゃあ僕もそろそろ寝ます。土方さんも早く寝てくださいよ。倒れられたら困るんですから」

「……ああ」

 ……なんだ、このむずむずした感じは。

「……ちっ」

 いらいらする。こんなんじゃ仕事にも集中できねえし、しかたない、寝るか。

 布団の中に入り、無理やり意識を手放した。

 この感情の正体に気づかぬまま――。