「神田は残れよ」

 ほらな。

「はい」

 あー、面倒だな。

「……総司、戻っていいぞ」

 なんで座ったままなんだ?

「僕も話が聞きたいです」

 おいおい。

「……はあー。まあいいだろう」

 いいのかよ!

「山南さんからある程度報告は受けている」

 山南から、報告? …………あー、初めて鬼神を見たときのか。

「なぜあいつらはお前のことを主と呼ぶんだ? 面識でもあるのか?」

 ぴくっ……。

「……龍神は人間の人口の10分の1ぐらいだと言われています。その中である2つの家系が最も強い力を持っています。それが神田と神宮寺です。そして時が経つにつれて龍神たちは西と東に分かれてそれぞれの家系の下につきました。そしてその支配力は龍神だけでなく、もののけをも支配した」

 だから自然にもののけたちは私たちのもとに集まる。

「だがあいつらは元々は人間だ」

「……人間がもののけになることだってあるんですよ」

 人の闇に引き寄せられるもののけ。ちょっとした隙に入り込んで、その体をどんどん虫食んでいく。

「一つ質問があります。薬の材料の中に、血は含まれていますか?」

「含まれていますよ」

 ……やっぱりか。

「なんの血かはご存知ですか?」

「いえ。そこまで教えられていませんので」

 それを準備したのは幕府の上層部か。

「おそらくそれはもののけのものです。だから私を主と呼ぶのでしょう」

 その血が我々一族に反応しているんだ。

「また見捨てるのか」

 ぴくっ……。

「そう言われたらしいな」

 そこまで報告してんのかよ。

「それはどういうことだ?」

「一族の血が使われているんでしょうね。そうでなければ傷が治るなんてことは……」

 …………待て。一族の血が使われているとして、なぜ幕府がそれを持っているんだ? 神田一族を殺ったのは神宮寺一族だろう。幕府とつながってるっていうのかよ。

「神田?」

 あっ!

「何ぼーっとしてんだ?」

「……すみません。なんでもありません」

 本人から直接聞くのが一番いいか。

「今日は疲れただろう。ゆっくり休め」

 疲れさせたのはてめえだよ。

「はい。失礼します」

 私に続いて沖田も部屋を出た。

 もしかしたら私は、大きな勘違いをしていたのかもしれない。