「雪ー!」

 屯所を出たところで声をかけられた。

「琉菜(るな)!」

 声の主は黒色の長い髪を後ろでお団子にした、黒いぱっちりとした瞳を持つ女性だった。

「なんでこんなところにいるのさ!」

 待ち合わせ場所はここじゃないだろうが。

「待ってられなくて、来ちゃった!」

 来ちゃった……じゃねえよ!

「とにかく、とっととここから離れるよ」

 琉菜の手をとり、急いで屯所から離れた。

「はい。これ渡しといて」

「はーい!」

 相変わらず元気だな。

「もう仕事は終わったのか?」

「うん、今日帰るよ」

「そうか」

 彼女は宝月(ほうづき)琉菜。私と同じく大目付に所属している。そして、神田一族の側近を勤める宝月家の末っ子。一族としての使命を放棄して人間たちと暮らしていたが、今は私の側近をやってくれている。

「雪、まだだいぶかかりそうだね」

「うん。今回が一番長いだろうな」

 早く解放されたい。

「もう屯所には来るなよ? 見つかると面倒なんだから」

 鋭い奴があそこには結構いるからな。

「はーい」

 わかってんのか?

「じゃあ私行くね」

「ああ。気をつけてな」

 琉菜と別れたあと、私は1人丘の上へ行った。

 あー、風が気持ちい。

 そこでごろんと横になり、すーっと目を閉じた。

 少し……寝よう。

 そのまま意識を手放した。