倒幕派が池田屋か四国屋にいると考えた新撰組は、隊を2つに分けることにした。

 一番組、二番組、八番組は近藤と共に池田屋へ。三番組、六番組、十番組は土方と共に四国屋へ行くことになった。山南と山崎は屯所で待機するらしい。

「出陣する!」

 各自目的地へ向かった。

 池田屋の近くの物陰で様子をうかがっていると、長州らしき奴らが数人、中に入っていった。

「……こちらが本命か」

「トシたちが来るにはまだ時間がかかりそうだな」

「もう行っちゃいましょうよ。横取りされるのは嫌ですし」

 沖田のその意見には賛成だな。

「……わかった。幹部と一番組は中へ。あとは周囲を固めろ。抵抗するようであれば、斬って構わん!」

「はい!」

 私たちは中へ入っていった。

「我ら会津中将お預かり、新撰組! 御用改めのため、宿内を改める。手向かいするようであれば、容赦なく斬り捨てる」

 長州の奴らが2階からどんどん降りてきた。

 愚かだな。

 刀を抜き、向かってくる奴らを容赦なく斬り捨てていく。

「2階、見てきます」

 沖田にそう声をかけ、上に上がった。

 あの2人はいるのか?

 気配を頼りに奥の部屋に向かっていく。

 ……中に2人いるな。だがこれは……。

「そこにいる者、入ってきたらどうだ」

 ……っ! 気づかれた!?

 襖を開けると、そこにはクリーム色の短髪と灰色の瞳を持つ男性、黒色の短髪と茶色の瞳を持つ男性がいた。

 まさかこんなところで会えるとは思わなかった。

「はじめまして。西の主、神宮寺海里(じんぐうじかいり)さん。そちらは側近の宮島柊(みやじましゅう)さんですね」

 せっかく会えたんだ。ただでは帰らせない。

「お前も人ではないな。我々と同じか」

 てめえとなんか一緒にされたくねえよ。

「神田龍と申します。この名、聞いたことありますよね?」

 知らないとは言わせない。

「神田一族か。あそこは随分前に滅んだと聞いているが」

 随分前?

「ご冗談を。神田一族が襲撃されたのは8年前。人間にとっては随分前でも、あなたはほんの少しの時間としか思っていないでしょう。それとも、人間と共に生活するにつれて、人間に染まりましたか?」

「この私が人間に染まる? そんなことあるわけないだろう。私は龍神の頂点に立つものだぞ。貴様こそ、幕府の犬とつるんで人間に染まったのではないか?」

 頂点?

「西の、ですよ。東の頂点は我々です。まだ神田一族は途絶えていないので。それに私が、人間なんかに染まるわけがないでしょう」

 人間なんて、死ぬほど嫌いなのだから。

「そうか。我々はそろそろ行かねばならん。じゃあな」

 短刀を奴の真横に投げた。

「……っ!」

「逃がすわけねえだろ」

 こっちはまだお前に用があるんでな。

 刀を神宮寺に向かって振り下ろした。

「そんなに殺されたいのか?」

「お前には殺されない」

 殺されるのはそっちだ。

 一度神宮寺と距離をとった。

「龍!」

 ん? この声は……平助か。

「そこにいる男をお願いします」

「わかった!」

「柊、すぐに戻ってこい」

「はい」

 2人は隣の部屋に移動した。

 これで邪魔者はいなくなった。

「神田一族を襲うように命令したのはあんただろ」

 動きが止まった!

「図星だな!」

 その隙に腕を斬った。

「貴様ー!」

 なっ……、速い!

 瞬時に体勢を変えて急所は避けたが、足を斬られてしまった。

 ちっ……。これじゃ動けない。

「お待たせしました、海里様」

 平助、やられたのか?

「また会うことになるだろう、神田の娘よ」

「待て!」

 2人は窓の外から出ていった。