その日の夜、私たちはぞろぞろと島原のある店に入った。

「お梅(うめ)どす。よろしゅうお頼申します」

 ある一室に案内され、すぐに美人さんが入ってきた。

 綺麗ー。女の人らしさがにじみ出てる。

「雪ー、今日はお前の歓迎会だ。どんどん飲めよ!」

 原田たちもう飲んでるのかよ……。

「ほら、飲みなよ」

「あっ……ありがとうございます」

 沖田が酒を注いでくれた。

「君、歳いくつだっけ?」

「18です」

「君は結構飲めるの?」

「弱くはないです。ただどれだけ飲めるかはわかりません」

 そんな限界まで飲んだことないし。

「へえー。よかった、厄介者が増えなくて」

 厄介者?

「あそこに1人いるからさあ、お酒飲めない人」

 土方を見ながらそう言った。

「俺は飲めねえんじゃねえ! 飲まないんだ!」

 飲めないんだろ。意地っ張りだな。

「あんな人は放っておいて、ほら、飲もう飲もう」

 私はそんなに飲む気はねえよ。

 そんなこと関係なしに結構な量を飲まされてしまった。

 飲ませた張本人は横で潰れている。

 あー、頭いてえ……。風にでも当たってこよう。

 隣の部屋に行くと、そこには先客がいた。

 月光に照らされた漆黒の長い髪は風に吹かれてまるで舞っているよう――。

 綺麗。梅と名乗ったあの女性とはまた違った美しさを、不覚にも彼に感じてしまった。

 黙っていれば女性にも人気なのだろう。中身が問題なんだろうな。

「神田か」

「すみません。お邪魔しました」

 ぺこりと頭を下げてその場を去ろうとしたとき、腕を掴まれた。

「えっ?」

「別に邪魔じゃねえよ。いたいならここにいればいい。……俺といるのは嫌か?」

 急にどうしたんだ? こいつ。こんなこと言う奴じゃないだろ。

「土方さん、酔ってるんですか?」

「酔ってねえよ」

 だよな。

「土方さんがそんなこと言うとは思いませんでした」

「うっせえ」

 そっぽを向かれてしまった。

 無愛想だな。

「……やっぱりここは、雰囲気が違いますね」

 違う世界だ。

「ここに来たことがあるのか?」

「はい」

 数回だけ仕事でな。

「女が来るようなところじゃねえだろ」

「そうですね。まあ、私にもいろいろあるんですよ」

 将軍のためならなんだってする。

「……そうか。お前は、自分のこと話そうとしねえな」

「話す必要を感じないので。新撰組に求められるのは強さのみ。それがわかってるなら、それ以上知る必要ないじゃないですか」

 知られたくないってのもあるが。

「お前は心を閉ざしてんだな」

 心を、閉ざす……。

「心なんてありませんよ」

「えっ?」

 しまった、つい口が滑った。

「いえ、なんでもありません」

 酔ってるせいだな。いかんいかん。……ん? あれは……。

 下を見ると、そこには見覚えのある男が2人立っていた。

 倒幕派の主格とも言える桂小五郎(かつらこごろう)と吉田稔麿(よしだとしまろ)じゃねえか。

「土方さん、山崎さんはこの辺りにいますか?」

「仕事を任せてるからいないと思うが」

 ちっ……。

「なんでお前、山崎のこと知ってんだよ」

「朝会ったんです」

 朝以降気配は消えていたが、まさか江戸に行ったのか? ご苦労なことだな。もっと遠くだと言えばよかっただろうか。

「すみません。私は席を外します。先に帰っていてください」

 それだけ言って急いで外に出た。

 いない。どこに行った……。あいつらがよく使うのは四国屋と池田屋だったな。夜も遅いし、やっぱここは近い池田屋だな。

 急いで池田屋に向かった。