皆が寝静まった頃、俺は眠れずに残っている仕事を進めていた。

 『容赦なく首を跳ねてくださって構いません』

 あんな平然に斬っていいなんて言うかよ、普通。早く死にたいって言ってるようなもんじゃねえか。

 あいつの実力は相当だ。俺や総司から本気じゃなかったとしても1本とったぐらいだ。女であんなに実力のある奴はそういない。

 だからこそ信用できねえんだ。間者だと疑わない奴のほうがおかしい。

 『こちら側です』

 あいつは確かにそう言った。

 それはつまり、倒幕派ではないということだ。……だが、あいつは怪しすぎる。全てを見透かしているような黒い瞳。それが、俺を迷わせる。

 俺は新撰組の副長だ。近藤さんを支え、幹部たちを、隊士たちを守る盾にならねえといけねえんだ。いつも正しい道を選ばなくちゃいけねえ。迷うわけにはいかねえんだ。俺は――。

「副長」

 後ろから聞こえたその声にはっとした。

「……山崎(やまざき)か」

 驚かせんじゃねえよ。心臓に悪いだろうが。

「はい。ただいま戻りました」

 くるりと後ろに振り返った。

 黒色の髪を後ろで一つに束ね、深緑の瞳を持つ黒装束を身にまとった男性が立っていた。

「ご苦労だったな。帰ってきて早々に悪いが、神田雪について調べてくれ」

「……誰ですか?」

 そりゃあそういう答えが返ってくるよな。

「今日入隊した一番組副長だ。実力はおそろく……俺以上だ」

 俺が本気を出したところであいつに勝てる気がしねえ。

「間者の可能性は?」

「今はなんとも言えねえな。だからそいつの情報を集めてくれ。出身地、家族構成、なんでもいい。とにかくあいつに関する情報を持ってこい」

 俺は、どうしてこんなに焦ってんだ?

「御意」

 そう返事をして山崎は去っていった。

 俺はきっと、この不安をさっさと消しちまいたいんだろうな。自分が正しいと思いたいんだ、きっと。……馬鹿だな、俺は。