「警戒してるのは、君のほうでしょ?」

 ……っ!

「その警戒、解いてくれると嬉しいんだけど」

「……なんで近づく必要があるんですか?」

 近すぎる。

「解いてくれないから」

 逆効果だろ!

「解きません。私は誰であろうと警戒は解きません」

 いつ敵になるかわからないから。

「ってことは、信頼してる人がいないんだ」

 信頼……。

「そんなもの必要ありません」

 結局は裏切られる。

「……やっぱ君も人の子だね。ちゃんと人間らしいところがある」

 えっ……?

「人間……らしい……」

 人間……。

「だって、ちゃんと恐怖心がある」

 恐怖……。

「君は死に対する恐怖が普通の人より薄く、強さや目的に執着心を抱いてる」

 ……図星だ。

「普通は死に対する恐怖が強いから強くなろうとする。死にたくないって一心でね。でも君は違う。僕と同じだ」

 確かに沖田も後者のほうだろう。真剣での戦いを見たことがないからはっきりとは言えないが、こいつは戦いを楽しんでる。……こういうのが一番厄介なんだよな。

「それ以外に恐怖を抱いているとは思わなかったからちょっとびっくりしちゃった」

 馬鹿にしてんのか、こいつ。

「人間に恐怖心を抱いていると言いたいわけですか?」

「その通り! よくわかったね、雪ちゃん」

 沖田がにこっと笑いながら軽い口調でそう言った。

 ……こいつ、さっきまでと雰囲気が違う。こんな一瞬に変えられるものなのか?

「あっ! 警戒心が強くなった」

 ……っ! 気づかれた!? なぜだ。表情は少しも変えていないのに。

「楽しんでますよね? 沖田さん」

「うん。楽しめそうな子が来たからね。これからが楽しみだよ」

 なんなんだ、こいつは。考えてることが全然わからない。

「そろそろ寝よう。もう眠くなってきちゃった。お言葉に甘えて、布団は僕が使わせてもらうよ」

「はい、どうぞ」

 とっとと寝ろ。

「変なことしようとしてもすぐにわかるからね」

 ――ゾクッ。

 なんだ、今の寒気は。殺気とは少し違う感じ……。

「おやすみ、雪ちゃん」

 まただ。また、雰囲気が変わった。

「……おやすみなさい」

 厄介な奴が上司になったな……。