目の前には無数の死体。

 床には大量の血。

 自身の頬にも、着ている衣服にも、人の赤黒い血が付着している。

 まるで血の海にいるかのように周囲は赤く染められ、それは殺した人数の多さを物語らせる。

「た、助けて、ください、お願い……します……」

 今にも斬ろうとした相手が、震えた声でそう頼み込んできた。

 体も声も震えて、腰が抜けてもう立つことすらできない。

 そんなに死ぬのが怖いか。それが人間というものだもんな。きっと私は、その恐怖を一生理解できないだろう。

 持っていた刀を振り上げた。

「ひっ……!」

 武士のくせに死に恐怖し、最終的には命乞いまでするのか。……まっ、武士も一人の人間。自分が一番かわいいのだから、最後は命乞いくらいするか。

 助けを願いながら後ずさる者。刀を捨ててまで必死に逃げようとしている者。

 そういう人間を何十人、何百人と見てきた。

 その度に人間は哀れな生き物だと思う。

 だが、そんな感情が標的を見逃すなんていう行動にさせるわけがない。

 ――ザシュッ。

 そんな乾いた音が耳をかすめる。

 それと同時に、赤いものが周囲に飛び散り、また赤が増した。そして力をなくした肉の塊は赤い海に沈んだ。

 主の敵となる者を排除するのが私の役目。

 生きた人形となった私の、唯一残されたことなのだ。