愛情表現と言ってしまえば早い。
単純で、最も正解に近い。
僕は目の前の相手が愛しいから、
愛しさ故に噛み付いた。

「さすがにびっくりしたわ、」
「ごめんね。」
「まぁ。怒ってるわけじゃない、」

それほどまでに痛かったのだろうか。
はたまた生理的に受け入れないのか。
これは本能的なことだと、僕は思う。
噛むという行為はそもそも愛情表現
ではないが、生き物にとっては
大切な事であり、口は神聖なのだ。

「愛してるんだ、」
「わかってるって、そんなの。」

どこか不安気な声色が耳に付く。
僕は相手を大切にしてきたつもりだ。
互を理解し、許し、愛したのだから
こんなことで途切れるはずがない。
焦りや不安感で頭はくるくると回り
理性とはなんであったかを眩ませる。
いけないいけないと脳裏では繰り返し
それでも肩や腕や指先は、今にも
相手に触れて、その身体に噛み付いて
血が滲むほど愛欲に塗れた行為を、
裏腹に望んでいるのだ。

「愛してるんだ、」

男といえど人の肌は滑らか。
人肌の体温は本来、心地よい。
なれど昂った者同士なら暑くなる、
汗ばんだ身体は煩わしささえ感じる。
自分の口の中は暖かく感じるけれど、
他人の口内に舌を這わせれば、
さほど暖かくはないものであり。
怯える人の体温は更に低く、
対照的に熱い自身の身体に丁度いい。