中村先生が右手に持っていた赤ペンの先を見つめて二戸 梨杏の事を思い出した。
「アイツ、赤いケチャップがたっぷりとかかったオムライスが食べたいって言ってたな、早く仕事を片付けて帰らないと――」
たまたま偶然にも中村先生の背後を通り過ぎようとしていた校長先生が不意に話しかけてくる。
「中村先生、“オムライス”がどうしたんですか……?」
――まさか、校長先生に聞かれていたとは。
焦る中村先生。
「い、いや――。何でもないです!ただの、僕の独り言なので……、気にしないで下さい!」
慌てながら話をしている中村先生の話なんか全然耳の中に入っていない校長先生。
昔、自分が子供の時に母親が美味しいオムライスを作ってくれたという校長先生の話が始まった。
――30分が経過。



