……空港…… ……午前10時00分…… 中村先生が右手で二戸 梨杏の重いスーツケースを引き、空いた左手で二戸 梨杏の手をしっかりと握り歩いている。 「ここで、迷子になるなよ」 「大丈夫だよ、先生がこうやって手を握ってくれているから──」 「俺は、もしかしたら……、途中で気が変わって、手を離すかもしれないぞ」 二戸 梨杏が歩きながら中村先生の顔を見上げた。 それは絶対に嫌だと思った二戸 梨杏は力を込めて中村先生の手をぎゅっと強く握りしめる。 中村先生が少し下を俯いてクスクスと笑った。