途中信号に引っかかることがなく、無事にタクシーが拓夢の家に着いた。
拓夢が父親の腕を自分の肩の方にまわしてタクシーから降ろそうとした時に「……梨杏ちゃんは、こんなに重くなかったんだよなぁ~」と中村先生の顔をチラッと見た。
拓夢、そんなことを言って、……もしかして俺の事を試しているのか?
キリッとした目つきで中村先生が拓夢を見る。
いけない、兄さんが俺を見る目つきが恐いなぁ、もうこれ以上梨杏ちゃんの話をするのは良くないから止めよう。
中村先生がうっすらと口を開く。
「拓夢、クローゼットの中で二戸に……・」
中村先生が途中で口を閉じた。
やっぱり、聞けなかった。
俺は拓夢に続けて『何かしたのか?』と聞きたかった。
その時になって、俺は自分の寝室の部屋に、しかも二戸が寝ているとわかっていた寝室の部屋に、拓夢にあの部屋へ逃げるように促した自分に少しだけ後悔をした。



