「あの頃は、楽しかったな。大変なこともいっぱいあったけど、…でも、いつも笑ってた。皆とはしゃいで、仲間っていいなって。友だちみたいで、兄弟みたいで…。すごく楽しかったなぁ」
「紗南さま…?」
「…すごく、昔に思える」
声に出して呟くと、思いが込み上げてきて溢れた思いが涙となって流れていた。
その涙を見て、ミナトが驚いた表情を見せる。
「仕方ないってわかってるよ。でも、仕方ないって諦められない…。仕方ないで寂しい思いは消えないの」
「紗南さま…」
「そうやって、紗南さまって呼ばれるのも。…慣れなきゃって…。会話だけは口調を崩してくれてるだけで満足しなきゃって…わかってるけど」
どうしても、昔を思い出してしまうの。
姫だとか、そんな肩書きなんてあるようでなくて。
無邪気にかかわっていた昔を。
「初めてこの世界に来た時と同じ…。私の居場所はどこにあるんだろうって…。私は、皆に敬われたいわけじゃない。王妃とか、そんな肩書きなんていらないよ」
ただ。
「レンの側にいたかっただけなの…」
決めたのは自分。
この道を選んだのは自分。
「私は、…一人ぼっちなの。…寂しいよ…」
ああ、こんな八つ当たりだ。
ミナトには関係ない話。
ミナトにはどうしようもない話。
ミナトにはミナトの立場があって。
それこそ、仕方ないことがたくさんある。


