「紗南さま、こんなところで風邪をひくよ」
「ミナト…」
城の中腹辺りにあるテラス。
そこは城下を見渡せる絶景ポイントだ。
私はそこに一人で城下を眺めながら考え込んでいた。
そんな私に声をかけたのはミナトだ。
ミナトは、私の世話係、私付きの騎士として配属されているため、一番隊の仕事以外の時には私の側にいてくれることが多い。
今も、きっと一番隊の仕事が終わったんだろう。
「…ちょっと、考え事」
「そう。でも、そんな薄着で…。風邪ひくからこれ羽織ってて」
「うん、ありがとう…」
少し肌寒い季節になってきて夕暮れのこの時間になると風が冷たい。
この世界にも四季のようなものがある。
そこまでの気温差はないから、結構過ごしやすくはあるのだけど。
「…なにを考えてたのか、聞いていい?」
ミナトは、少し遠慮がちに尋ねる。
「昔のこと」
「昔?」
「レンがまだ騎士として一番隊にいた頃。私が、救いの姫だと祀り上げられて、皆と一緒に旅をしていたころのこと」
「ああ…」
まだ一年ほどしかたっていないのに、とても昔に思える。
それほどまでに、いろんなことが変わってしまった。


