「ごめん、なに言ってるんだろう。私…、ソウシって誰だっけ…」
知らない名前を口走ってた。
しかも、ものすごく自然に。
どうしてだろう?
私が訂正すると、レンは戸惑ったように視線を逸らした。
でも、それ以上なにも言わない。
様子が、変だ。
「どうか、したの?」
「…いや」
不機嫌そうな表情でそっぽを向いて答えるレンに、なんだか腹が立つ。
私が何も知らないと思って、ほんと感じ悪いんだから。
「なんか、気分悪い。ご馳走様」
ナイフとフォークをその場に叩きつけるようにしておいて立ち上がる。
そのまま、大広間を飛び出す私を、レンは一言も呼び止めようともしなかった。
ああそうですか。
なによなによ、結局、なにも思い出さない私なんて用無しってことでしょう?
あんな奴、どうして好きになったの、昔の私!
ズカズカと音を立てて自分の部屋に戻る。
バン!と大きな音を立てて扉を閉めた。
我ながら、大人げない。
でも、腹が立ったんだから仕方ない。


