「勘違いしないで、紗南ちゃん。俺たちは、確かに思い出してほしいって思ってるけど、今の紗南ちゃんのことだって大切に思ってるよ」
「ウソ…。仮にミナトくんがそうだとしても、あのレンって人は…そうは思ってないよ。最初は確かにそうだったかもしれないけど、今は…別物だって思ってるもん…」
「紗南ちゃん…。レンは、不器用だから、うまく気持ちを表せないだけなんだよ」
ミナトはそう言って私を慰めてくれるけど、私の気持ちは晴れない。
だってみんな、私を見てくれているわけじゃない。
私の奥の、私の知らない私を見てるんだ。
今の私は、私なのに。
「もう、わけわかんないよ…」
「紗南ちゃん…。混乱させて、ごめん…。ごめんね」
謝らせたいわけじゃない。
ミナトが悪いなんて思ってるわけじゃないから。
だったら誰が悪いんだろう。
忘れてしまった私?
それとも、騙して忘れさせた人魔という人?
どれも、ピンと来ないの。
「紗南ちゃん、ご飯食べよう」
「…お腹すいた」
「でしょ?シェフが腕によりをかけて紗南ちゃんの好物を作ったんだ。だから、食べてよ」
私の好物…。
それは、私じゃなくて、私の知らない私の好物。
なんて、そんなことを言いだしたらきりがないから私は胸に秘めておく。


