また、こみ上げてくるものが溢れだしそうになる。
私は、ガシガシと目元をこする。



「紗南さま…?」

「…ごめん。ちょっと…一人にして…」




声を出してしまうと、それは堰を切ったように溢れ出す。
どうして思い出せないの?
ここに来れば、なにか思い出せるかもしれないって思った。
だから、城の中を歩き回ってみたけど、でもどれも見覚えのないものばかりで。



気持ちばかりが焦る。





私だけ、なんだか取り残されたみたい。






「こんなところにいたのか」





後ろでそんな声がする。
私は、涙を必死で拭う。



「レンさま…」



シオンくんの、戸惑った声。
私は、深く深呼吸をすると立ち上がった。




「ごめん。私が連れまわしたの。だから、シオンくんを怒らないでね」

「…怒りはしない」

「…そ。なら良かった。もうご飯?あ―お腹すいた」



私は、そう明るく言うと、レンの顔を見ないようにして横を通り過ぎようとした。